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大阪高等裁判所 平成6年(行コ)59号 判決

奈良県橿原市八木町三丁目五番二三号

控訴人

植田利隆

右同所

控訴人

植田庸子

奈良県橿原市八木町二丁目六番三〇号

控訴人

植田靖子

右同所

控訴人

植田喜久次

右四名訴訟代理人弁護士

荻原研二

右同

内橋裕和

右同

藤井茂久

奈良県大和高田市西町一番一五号

被控訴人

葛城税務署長 中島剛

右訴訟代理人弁護士

井上隆晴

右指定代理人

小野木等

右同

桑名義信

右同

清水透

右同

八木康彦

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、平成元年三月七日付けで被相続人植田喜兵衛の相続税につき、控訴人らに対してなした更正(平成二年七月二五日付け異議決定並びに控訴人植田靖子及び同植田喜久次については平成三年七月二三日付け裁決により取り消し後のもの。以下、右各取り消し後のものを「本件各更正」という。)につき次の金額を超える部分を取り消す。

(一) 課税価格

(1) 控訴人植田利隆 八三九三万六〇〇〇円

(2) 控訴人植田庸子 四五五八万八〇〇〇円

(3) 控訴人植田靖子 二億一九九一万七〇〇〇円

(4) 控訴人植田喜久次 八五七九万〇〇〇〇円

(5) 右合計額 四億三五二三万一〇〇〇円

(二) 相続税額

(1) 控訴人植田利隆 三二四一万四一〇〇円

(2) 控訴人植田庸子 一七六〇万五〇〇〇円

(3) 控訴人植田靖子 八八万八七〇〇円

(4) 控訴人植田喜久次 三三一三万〇〇〇〇円

(5) 右合計額 八四〇三万七八〇〇円

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二事案の概要

本件の事案の概要は、左記のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」(原判決三枚目表三行目から七枚目裏六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目裏七行目に「その」とあるのを「本件遺贈株式の」と訂正し、同七枚目表八行目に「原告」とある次に「ら」を付加する。

二  当審における新たな主張

被控訴人は、本件株式並びに本件カセキ債権及び中和債権は被相続人の相続財産に含まれると主張するのに対し、控訴人らは、本件遺贈株式(但し、原判決添付別表13の順号10の株式を除く。)はカセキの金融機関からの借入金債務の担保となっており、本件相続開始当時、カセキは右債務の弁済が不能の状態にあったから右株式を相続財産として評価すべきでないとし、また、本件カセキ債権及び中和債権については、カセキ及び中和のいずれもがこれら債権の弁済が不能であったから相続財産として評価すべきでないと主張しており、双方の主張の詳細は以下のとおりである。

1  被控訴人の主張

(一) 控訴人らは、カセキが本件相続開始当時弁済不能であったと主張するが、その根拠は同社の昭和六一年六月期の決算報告書が債務超過になっていたことに尽きるが、会社が決算上債務超過にあったとしても、必ずしも弁済不能となるわけではなく、実際にカセキはその後現在に至るまで営業活動を継続している。

(二) 中和についても同様であり、たとえ中和に本件相続開始当時欠損があったとしても、その後同社は中和商事と商号を変更して現在も営業を継続している。

(三) よって、カセキ及び中和とも、弁済不能の状態にあったとはいえず、本件遺贈株式や本件カセキ債権及び中和債権を相続財産と評価したのは相当である。

2  控訴人らの主張

(一) 本件遺贈株式のうち原判決添付別表13の順号4ないし9、13ないし15の株式は、カセキの南都銀行に対する借入金債務の担保となっており、また、同表の順号3、11、12の株式はカセキの協和銀行に対する借入金債務の担保となっていたところ、南都銀行に対する右借入金は同銀行に対する預金の額を控除しても一億一四七四万八七六三円であり、また、協和銀行に対する右借入金は同銀行に対する預金の額を控除しても一六二七万九五八四円であり、いずれも担保である右株式の評価額を上回っていた。

(二) しかし、カセキの昭和六一年三月期の決算報告書(甲三一の1ないし9)によれば、同社は大幅な債務超過の状態にあり、南都銀行等に対する前項の借入金債務の弁済が不能の状態にあり、したがって前記担保権を実行されることが確実であり、かつカセキに求償しても弁済を受ける見込みがなかった。

(三) また、カセキは右の状態で、本件カセキ債権の弁済も不能であったし、中和もカセキと同様に大幅な欠損を有しており、本件中和債権の弁済が不能の状態であった。

(四) よって、本件遺贈株式(但し、原判決添付別表13の順号10の株式を除く。)並びに本件カセキ債権及び中和債権は被相続人の相続財産として評価すべきではない。

第三証拠関係

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるのでこれを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がなく棄却すべきものと判断するところ、その理由は、左記のとおり付加、訂正するほかは原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」(原判決七枚目裏七行目から一四枚目裏七行目まで)のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決八枚目表三行目に「分家」とあるのを「乙」と、同五行目に「被相続人」とあるのを「植田喜兵衛」とそれぞれ訂正し、同六行目に「植田喜兵衛」(但し、二箇所目)とある次に「名義」を、同七行目に「同四項には」とある次に「『中和石油販売(株)とカセキ(株)に関して』という表題で」をそれぞれ付加し、同裏二行目に「その」とあるのを「当初覚書の」と訂正する。

2  同八枚目裏六行目に「本件覚書三項には」とある次に「『株式に関して』という表題で」を付加し、同八行目に「植田喜兵衛の株式担保預かり証」とあるのを「株式預り証」と訂正し、同九行目に「同四項には」とある次に「『中和石油販売(株)とカセキ(株)に関して』という表題で」を付加し、同行に「喜兵衛」とある前に「植田」を付加する。

3  同九枚目表八行目に「本件遺贈株式」とある前に「本件株式はいずれも南都銀行橿原支店及び協和銀行橿原支店に対するカセキの借入金債務の担保となっていた被相続人名義の株式であるところ(乙四七の三、四枚目、弁論の全趣旨)、」を付加し、同裏六行目に「されている」とあるのを「されており、これらの株式の売却及び購入は控訴人利隆の判断で行われた」と訂正し、同行に「乙一八」とある次に「、原審における控訴人利隆」を付加する。

4  同一一枚目裏七行目に「主張し」とある次に「、また控訴人利隆は、前記のとおり、昭和六〇年四月三〇日ころ当初覚書のとおりの合意が成立し、その一週間後に当初覚書を作成し、さらにその一か月後に関係者に電話連絡して了解を得た上、本件覚書を作成した旨供述し」を、同九行目に「原告らの主張」とある次に「及び控訴人利隆の右供述」をそれぞれ付加する。

5  同一二枚目裏一〇行目の次に行を改めて次のとおり付加する。

「また、証拠(甲二一)によれば、税務調査後に控訴人らが大阪国税局長宛に提出した平成元年二月二五日付け嘆願書には、本件株式について、カセキに贈与済みであったとして処理されたい旨の申立てがあり、その理由を縷々記述しているものの、右申立ての重要な根拠であるはずの本件覚書を全く引用していないことが認められるが、もし右嘆願書作成の時点で本件覚書が存在したのであれば、控訴人らがその申立ての理由として本件覚書を引用しないことは考えられない。」

6  同一二枚目裏末行の次に行を改めて次のとおり付加する。

「そして、原審における証人福田兵一の証言中にも、税務調査時の状況につき、控訴人利隆の右供述と同旨の証言部分が存するが、同様に信用できない。

また、当審における証人西岡千之は、控訴人らの依頼により税理士である同証人が本件相続税の申告を行った際、控訴人利隆から本件覚書を見せられたし、税務調査時にも本件覚書が存在し国税局職員がそのコピーを取った旨証言しているが、他方、同証人の証言によれば、税務調査後本件各更正がなされるまでの間、同証人が控訴人利隆らと共に、本件株式が相続財産に含まれるか否か等をめぐって国税局職員と数回交渉を行った際、控訴人らの税務申告の正当性を裏付ける最重要資料であるはずの本件覚書を提示していないことが認められ、そうだとすると、同証人の前記証言も信用できない。」

7  同一三枚目表九行目の次に行を改めて次のとおり付加する。

「のみならず、前記認定のとおり、税務調査後に控訴人らの依頼を受けた税理士らが国税局職員と行った交渉に際して、控訴人らの税務申告の正当性を裏付ける最重要資料であるはずの本件覚書が提示されていないことや、控訴人ら作成の嘆願書(甲二一)にも本件覚書が引用されていないことからすると、本件各更正がなされるまで本件覚書が存在しなかったことが推認される。」

8  当審における新たな主張について

(一) 控訴人らは、カセキ及び中和が本件相続開始当時弁済不能の状態にあったことを前提に、カセキの金融機関に対する借入金債務の担保となっていた本件遺贈株式(但し、原判決添付別表13の順号10の株式を除く。)や、本件中和債権及びカセキ債権を相続財産として評価すべきでない旨主張している。

しかるところ、証拠(甲三一の1ないし7)によれば、カセキの第一五期事業年度(昭和六〇年七月一日から昭和六一年三月三〇日まで)の法人税の申告において、当該年度の欠損金が六四四〇万二二八五円であって累積欠損金が二億〇六三三万一二八一円であるとされており、債務超過の状態にあったことが認められるが、その後現在に至るまで相当期間が経過するも、その間に同社が破産宣告を受けたり、あるいは支払停止その他事実上の倒産状態に陥ったような事情は本件証拠上認められない。そうだとすると、カセキが前記時点で債務超過の状態にあったからといって、直ちに弁済不能の状態にあったとまでは認められず、他にこれを肯認すべき事情も見当たらない。

さらに、中和について、控訴人らは同社が大幅な欠損金を有する旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、まして同社が破産宣告を受けたり、あるいは支払停止その他事実上の倒産状態に陥ったような事情は本件証拠上認められないから、本件相続開始当時弁済不能の状態にあったとは到底認められない。

(二) よって、本件遺贈株式や本件カセキ債権及び中和債権を相続財産として評価したのは相当である。

二  以上によれば、原判決が本訴請求を棄却したのは相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 小田八重子 裁判官 田中澄夫)

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